実験的な作風の実験小説と言われる作品をまとめています。
20世紀中頃~後半にかけて興ったモダンポスト(近代モダン)やヌーヴォー・ロマン(主に、フランス)という文学潮流の時代に、特に多く出版されました。
メタフィクションや物語性の排除、文体の遊戯など、実験性溢れる小説を掲載しています。
実験的小説一覧
デイヴィッド・マークソン
「ウィトゲンシュタインの愛人」 デイヴィッド・マークソン(著)
アメリカ実験文学の最高到達点
地球で最後の1人として生き残ったケイト。アメリカの海辺の家で暮らしながら、終末世界での日常生活、家族と暮らした過去のこと、ギリシャを訪ねて神話世界に思いを巡らせたことなどを、書き綴るーー
「これは小説ではない」 デイヴィッド・マークソン(著)
「ウィトゲンシュタインの愛人」の著者による「まったく物語のない小説」
作家や芸術家の病気、狂気、不遇、死因などの伝記的トリビアが、死のカタログのように積み重ねられるーー
ロレンス・スターン
「トリストラム・シャンディ」 ロレンス・スターン(著)
プルーストやジェイムズ・ジョイス、ヴァージニア・ウルフ等の「意識の流れ派」の源流の実験小説
内容、形式ともに奇抜で、脱線に次ぐ脱線、独特の文体で目まぐるしく移り変わるハイパーテキストの先駆け。
夏目漱石も読んでいた奇書と言われています。
ミロラド・パヴィチ
「風の裏側」 ミロラド・パヴィチ(著)
東欧ポストモダンの旗手による幻想的な小説
表紙が両面にあり、裏表、どちらからでも読める実験的小説
古代ギリシアの悲恋物語の2人が、現代の化学専攻の女子大生・ヘーローと、17世紀の青年石工・レアンドロスに生まれ変わり!?・・
B・S・ジョンソン
「老人ホーム 一夜の出来事」 B・S・ジョンソン(著)
9つの章が同時進行する傑作実験小説
登場人物9人の同時進行老人喜劇、老いの真実とは!?ー
老人施設の一夜。8人の老人と1人の寮母。いつもの光景だが、歩けない人、何もわからなくなっている人、自分の世界にひきこもる人、それぞれの老いの9章が、同時に進行し!?ーー
アン・クイン
「スリー」 アン・クイン(著)
B・S・ジョンソンらと並び、1960年代イギリスで実験小説を発表した前衛作家
自伝的要素も組み込まれた奇妙な長編小説
行方不明の少女が遺したテープと日記帳が、夫婦2人の日常を軋ませ、次第に、蝕んでいくーー
グレアム・マクレー・バーネット
「揺れる輪郭」 グレアム・マクレー・バーネット(著)
ブッカー賞候補の傑作実験小説
60年代ロンドンで異端児と呼ばれた精神科医。彼の伝記を書く作家宛てに、ある女性の日記が届く。姉の自殺と精神科医の治療の関連を疑い、真相を明らかにすべく、偽名で治療を受けた女が次第に、我を失っていく様が描かれ!?・・
ウラジーミル・ナボコフ
「青白い炎」 ウラジーミル・ナボコフ(著)
帝政ロシアに生まれ、亡命作家の生涯をおくったナボコフの実験的小説
「ロリータ」の著者による文学的遊戯に満ちた問題作
999行から成る長篇詩、前書きと膨大な註釈。索引まで付した学問的註釈書のような体裁の小説。
アリ・スミス
「両方になる」 アリ・スミス(著)
コスタ賞 受賞作
スコットランド発の最先端小説
15世紀イタリアに生きた画家と現代の英国に暮らす少女。二人の物語が時空を超えて響き合う。新鮮な驚きに満ちたコスタ賞受賞作。
アラスター・グレイ
「ラナーク―四巻からなる伝記」 アラスター・グレイ(著)
スコットランド文学の奇才の最高傑作
第3巻から始まり、1、2巻と進み、4巻になるという実験的な構成
30年近い年月をかけ、完成させた小説だと言われています。
ミステリ・ファンタジー・SF・文芸批評・メタフィクションなどの形式が混じった叙事詩
退廃の都市アンサンクをさまよう記憶を持たないラナークは、奇怪な施設に収容され、陰謀の渦巻く大騒動に巻き込まれるが!?・・
マーティン・エイミス
「時の矢:あるいは罪の性質」 マーティン・エイミス(著)
世界初の「逆語り小説」
世界はいったいいつから意味をもちはじめたのか? 私には世界はフィルムが逆さまに回っているように見える・・
マーク・Z. ダニエレブスキー
「紙葉の家」 マーク・Z. ダニエレブスキー(著)
仕掛け・遊びがいっぱいのホラー
単純なミスプリントも含めて「仕様」のレイアウトに手間がかかっている実験小説
「ネイヴィッドソンの物語」「ザンパノの物語」「トルーアントの物語」の3つが、クラインの壺の構造で繋がりあうーー
ハリー・マシューズ
「シガレット」 ハリー・マシューズ(著)
実験的文学者集団「ウリポ」所属の米の鬼才
精緻なパズルのような構成と仕掛けの傑作
絵画、詐欺、変死をめぐる謎・・ その背後で、いったい何が起きていたのか!?ーー
ニューヨーク近郊に暮らす上流階級13人の複雑な関係が、時代を往来しながら明かされる。
エヴァン・ダーラ
「失われたスクラップブック」 エヴァン・ダーラ(著)
第11回(2025年)日本翻訳大賞 受賞作
475ページピリオドなし。たった1度だけ出てくるピリオドの意味とは!?
ピリオドなし。人物視点が変わってもひたすら続く文章、電話やラジオの会話のこちら側だけの声など、実験溢れる文体。正体不明の作家によるエコ・フィクション(環境)の傑作。
デイヴィッド・ミッチェル
「クラウド・アトラス」 デイヴィッド・ミッチェル(著)
時代を超えた6つの物語が展開
クローン、映画、原発、音楽、伝染病。SF、ミステリ、コメディなど、ジャンルを横断する実験的超大作。 映画化済み。
イタロ・カルヴィーノ
「冬の夜ひとりの旅人が」 イタロ・カルヴィーノ(著)
文学の魔術師による究極の〈読書〉小説
様々な文体を駆使したメタフィクションの手法を用いたメタの極北。物語が物語を誘発する。めくるめく世界。実験小説の代表のような作品。
キャシー・アッカ―
「血みどろ臓物ハイスクール」 キャシー・アッカー(著)
ポストモダン・フェミニズムの実験小説家・キャシー・アッカーの作品
他の作品が全て絶版という中、2018年に文庫化されました。
フェミニズムの行き過ぎで過激と言われた作家の現実と神話が混淆する伝説的カルトクラシック。詩、日記、戯曲など多様な文体、イラスト、引用を駆使した愛と狂気の物語。
ドナルド・バーセルミ
「帰れ、カリガリ博士」 ドナルド・バーセルミ(著)
ポストモダン文学の極北とも言われる実験的な小説短編
トマス・ピンチョン、ジョン・バースと並び、ポストモダン文学の三羽烏とも言われる作家、ドナルド・バーセルミ。ゴシックー表現主義ーシュルレアリスムと続く文学的伝統と前衛的実験性が結びついた現代的ゴシック。
フリオ・コルタサル
「石蹴り遊び」 フリオ・コルタサル(著)
マジックリアリズムの先駆者としても知られるコルタサルの作品
アルゼンチンの青年・オリベイラは、パリで娼婦と恋に落ち、暮らし始める。しかし、女は、こつ然と姿を消したーー 失踪した女の幻影を追い、苦悩する男の魂の彷徨い。
エルナン・ディアズ
「トラスト ―絆/わが人生/追憶の記/未来―」 エルナン・ディアズ(著)
[2023年] ピュリッツァー賞 受賞作
視点の異なる4編からなる実験的小説
オバマ元大統領も絶賛の現代アメリカ文学の最先端
1920年代、ニューヨーク。ニューヨーク金融界の頂点に登り詰めた投資家ベンジャミン・ラスク。その妻ヘレンは、社交界で名声を得るが、やがて精神に病をきたしてしまう・・ 夫妻の巨万の富の代償は、いったい何だったのか!?ーー フィクションと現実を織り交ぜつつ・・
横光 利一
「機械」 横光利一(著)
新手法を駆使した実験小説
文学的独創性を確立した横光利一の代表的作品の短編小説
九州の造船所を辞め、上京した私は、ネームプレート製造所で働くことになる。しかし、暴力を振るう古参の軽部、製造所の秘密を盗みに来たと思われる別の製造所からきた職人・屋敷など、3者入り乱れ混迷を深める。そして、屋敷は、重クロム酸アンモニア溶液を飲んで死んでしまい!?・・
円城 塔
「これはペンです」 円城 塔(著)
科学と奇想、思想と情感が織りなす物語
叔父から、大学生の姪に次々届く不思議な手紙。叔父は、文章自動生成プログラムの開発で莫大な富を得たらしい。肉筆だけでなく、文字を刻んだ磁石やタイプボール、DNA配列として現れたーー